仕事でもプライベートでも、気が付けば誰かの言いなりになっている、といったことはないでしょうか。
職場の上司、先輩、同僚、家族など、他人からの支配から逃れようと努力してもうまくいかずに、かえって自分を追い詰めてしまうことがあります。
「なぜか、いつも自分の考えとはちがった方向に物事が進んでしまう」
そんな思いを胸に抱えながらも、他人を優先してしまう生活から抜け出せないのは、とても苦しいものです。
「自分に還るための40の習慣」1つ目は、ついつい他人のことを優先してしまう人に向けて、他人の期待や支配から逃れることの大切さについて解説します。
目次
他人の支配から逃れるために環境づくりをしよう
他人に支配されやすい人の思考パターン
他人に支配されやすい人の考え方には、「自分に価値がない」「他人を優先しなければならない」「自分が頑張らなければならない」などといった、共通するパターンがあります。
このような考え方の"クセ"を直すためには、自分の考え方のパターンに気づき、それをありのまま受け入れ、少しずつ修正していくという泥臭い作業が必要になります。
他人に支配されやすい人の思考の特徴
- 過度な自己犠牲
- 他人のニーズや期待に応えようと、自分の欲求や感情を抑えてしまう傾向があります。「自分のことは後回しにしても、他人を優先しなければならない」という信念を持ち、自己犠牲を美徳と考えることが多いです。
- 他者承認欲求が強い
- 他人からの承認や評価がないと不安を感じ、自分の価値を他人の評価に依存します。「他人に認められなければ、自分には価値がない」といった思考が根底にあり、他人の期待に応えることが重要だと感じます。
- 断れない(ノーと言えない)
- 自分の意見や気持ちを正直に伝えることが難しく、他人の要求に対して「ノー」と言えない傾向があります。これは、他人を失望させたり、関係を悪化させたりすることへの恐怖から来ています。
- 過度の責任感
- 自分が他人の感情や行動に対して責任を感じすぎる傾向があります。「相手を幸せにしなければならない」や「自分がもっと頑張らなければならない」と考え、自分に過度なプレッシャーをかけることがよくあります。
- 否定的な自己イメージ
- 自己評価が低く、「自分には価値がない」「自分は他人より劣っている」といった否定的な自己イメージを持っています。そのため、自分の意見や感情が他人にとって価値がないと感じ、他人の意見や決定に従いやすくなります。
- 過度の不安や恐れ
- 他人との対立や、他人に拒絶されることへの強い不安や恐れがあり、それを避けるために他人の意向に従うことが多くなります。また、変化や未知の状況に対する恐れから、他人に依存しがちです。
- 境界線が曖昧
- 自分と他人との間に適切な境界線を引くことが難しく、他人の感情や意見を自分のもののように感じる傾向があります。このため、他人の影響を受けやすく、独立した意思決定が困難になることがあります。
一発逆転より長期的な環境づくり
自分の人生を生きていないという感覚が強いと、一発逆転の解決策を探しがちです。
「自分の考えに従って生きてこれなかったから、自分の人生を取り戻したい」
「転職しよう」「フリーランスになろう」
環境を変えることで、物理的な支配からは逃げることができるかもしれません。しかし、新しい職場で同じような対人関係の問題を抱える可能性は残ります。
ですから、思考のクセを直すための環境を整えながら、次のステップに向けた準備を進めていくのです。
「他人の期待に応えなくてもいい」
「誰かに決められた人生を歩まなくていい」
少しずつ、そう思えるようになったときに、新しいスタートを探せばいいのです。
まずは、誰かに決められた人生を降りる、「撤退する」心構えを作ることからはじめましょう。
環境づくりが重要な理由
日常生活の中で問題と向き合う大変さ
自分の思考のクセを直すために、環境を整えることが大事だとお伝えしました。
その理由を、時間、視点、原因の3つの観点から説明しましょう。
- 時間:思考のクセを直すためには、時間がかかるということ。
- 視点:自分自身で思考のクセに気づくことは難しいということ。
- 原因:思考のクセを引き起こしている原因は、ひとによって異なるということ。
理由1. 思考のクセを直すのには時間がかかる
あなたは6歳の時に「勉強しなきゃ!」「社会性を身につけなきゃ!」と思い立って、小学校に行くことを決めましたか?ピカピカのランドセルを親に用意してもらい、よく分からないまま小学校に通ったのではないでしょうか。
わたしたちは物事の分別がつくようになる前から、親や社会からの期待を背負って生きています。成長するにつれて、「こういう風になりたい」という自分の想いと、「こうなるべきだ」という周囲の期待との間で、折り合いをつけなければならなくなります。
大人になっても自分の気持ちに従って行動できない人は、子どもの頃に自分の気持ちを優先せずに、他人の期待に応えるために生きてきた人なのです。
子どもの頃から何年、何十年にもわたって「自分に価値がない」「他人を優先しなければならない」「自分頑張らなければならない」という思考を繰り返していると、その思考パターンはより強固なものとなっています。
子どもの頃から、何年も、何十年も同じような思考を繰り返してきたのです。「自分がやらなきゃ」「自分さえよければ…」といって自動的に湧き上がってくる思考を、止めることは簡単なことではないのです。
理由2. 思考のクセは自分で気づきづらい
他人の支配に縛られることの怖さは、自覚がないということです。自分自身では気づきづらく、仕事や日常生活が困難になるような問題が発生したときに、はじめて自分が囚われていることに気が付くのです。
そして、他人に支配されている都合の良い自分に気づいたとしても、自分だけでそこから逃れることが難しいのです。
わたしの場合は、上司と父のイメージが重なる、同僚と昔のクラスメイトのイメージが重なる、といったことがありました。自分の気持ちに反して、相手のことに従ってしまう、自分を犠牲にしても波風を立てないようにするといった行動をとっていました。
「自分がやらなきゃ」と思えば思うほど視野は狭くなり、自分の思考がおかしいことに気が付かなくなるのです。
理由3. 思考のクセの原因はひとそれぞれ
他人に支配される人生を長く送ってきた人の中には、そんな自分を変えようと努力したひともたくさんいると思います。しかし、そのたびに挫折して、「自分なんて」という思いをより強固なものにしているひともまた、たくさんいることでしょう。
わたし自身、アダルトチルドレン関連の本、毒親の本、性格改善の本など、さまざまな本を読み漁り、カウンセリングを受けながら、他人の期待に支配されない生き方を模索してきました。
そこで得た答えは、「解決策はひとそれぞれ」ということでした。
手っ取り早い解決策を探しているひとには、なんとも肩透かしな解決策ですが、特効薬などはないということです。自分の「思考のクセ」をなくすのは、それほどに大変なことです(苦しい思いをしている方ほど、よく分かっていただけるかと思います)。
自分の極端な思考につながる、心の傷つきの種類や度合いは人それぞれなのです。
他人の支配から逃れるためにできること
さまざな価値観に触れる
他人に支配される思考グセを修正するための環境として大切なことは、さまざまな価値観に触れることができるということです。偏りがちな自分の思考を、なるべく中立な状態に戻すような環境を整えておくのです。
平日は会社と家との往復だけで一日が終わり、休日は体力回復のために体を休める。あるいは、家族サービスで自分の時間がない。そのような限られた空間だけで毎日を過ごしていると、視野がどんどん狭まっていきます。
「自分にはどうすることもできない」「結局何も変わらない」
そのような無気力な気持ちを一層強めてしまいます。
ですから、自分の視野が狭くならないように、「こんな考えの人もいるんだ」「こんなことをしてもいいんだ」と思えるような刺激を定期的に自分に与えてあげてください。自分が社会と接する場所を増やしてください。
それは、会社の帰り道に映画館に寄るといった簡単なことでもいいですし、同じような悩みを持った人とSNS上で話すのでもいいです。そうやって、少しずつ自分の思考パターンを変えていける環境を整えていくのです。
他人に頼る勇気を持つ
自分でどうにもならないときには、誰かに頼れる環境を整えてください。わたしはカウンセラーについてもらいながら、自分が持つ信念や思い込みに気づき、1年以上をかけて修正をしてきました。
「自分なんかがカウンセラーを頼ってもいいのだろうか」
と、はじめは二の足を踏みましたが、真摯に話をきいてくれるひとはいるものです。今の状況を打破したいと思う人は、ぜひ一度カウンセリングを受けてみることをお勧めします。
メンタルヘルスの問題が増加している昨今では、カウンセラーと名乗る人が増えています。そのため、大学・大学院で心理支援業務に関する教育を受けている人もいれば、教育を受けることなくカウンセリングをしている人もいます。
資格を持っていることが、必ずしもカウンセリングの技術の高さを証明することにはなりませんが、知識と経験の有無を判断する根拠にはなります。カウンセラーを探すときには、公認心理士、または、認定心理士の資格を持っているかを確認することをお勧めします。
カウンセラーの資格
- 公認心理師
2015年に施行された「公認心理師法」に基づいて設けられた国家資格です。この資格は、日本で初めての心理職に関する国家資格として、医療、福祉、教育、産業、司法など、さまざまな分野で心理支援を行う専門職に求められています。 - 認定心理士
日本心理学会が認定する資格で、心理学の基本的な知識と技術を有することを証明するものです。
社会的にカウンセラーが不足している状況ですので、「この人に聞いてもらいたい」と思っても、予約が半年、1年先なんてことは、ざらにあります。
最近では、オンラインでのカウンセリングも増えていますので、自分にあったカウンセラーを見つけてみてください。
カウンセリングをしても、すぐに問題が解決するわけではありません。カウンセラーは伴走をしてくれる人ではありますが、解決策を見つけてくれる人ではありません。解決できるのは、自分自身であることを忘れないようにしましょう。
他人に支配される思考グセの修正方法
自分の思考が暴走しないように環境を整えたら、あとは他人に支配されやすい人の思考グセを修正していきましょう。具体的な方法については、専門性の高い分野になりますので、紹介までにとどめておきます。
他人に支配されやすい思考パターンを修正するためには、自己認識を深め、徐々に新しい考え方や行動を身につけていくことが重要です。そのための一般的な方法としては、次のようなものがあります。
思考のクセの修正方法
- 自己認識を深める
- 自己反省の時間を持つ: 自分の行動や思考パターンを振り返る時間を定期的に設けます。日記を書く、瞑想を行う、またはカウンセリングを受けることで、自分の内面に目を向け、自分が他人に支配される原因を理解することが大切です。
- 感情のトリガーを特定する: どんな状況や相手が、自分に「ノー」と言えなくさせるのかを分析します。その感情や反応のパターンを特定することで、次に似た状況が起こったときに対応しやすくなります。
- 自己肯定感を高める
- ポジティブな自己対話を実践する: 自分に対して優しく肯定的な言葉をかける習慣をつけます。例えば、「私は価値のある存在だ」「自分の意見を持つことは大切だ」といった言葉を、日常的に繰り返し自分に言い聞かせます。
- 自分の強みや成功体験に目を向ける: 自分が過去に達成したことや、他人から評価されたことをリストにしておき、自己肯定感が低下したときに振り返るようにします。これにより、自信を取り戻す助けになります。
- 自己主張の練習をする
- アサーティブなコミュニケーションを学ぶ: アサーティブとは、自己主張しつつも他者を尊重するコミュニケーションのスタイルです。これを学び、実践することで、自分の意見や感情を適切に表現できるようになります。最初は小さなことから始め、徐々に自分の主張を強化していくと良いでしょう。
- 小さな「ノー」を言う練習をする: 自分にとって無理のない範囲で、簡単な「ノー」を言う練習をします。例えば、友人からの誘いを断るなど、日常の小さな場面で少しずつ練習することで、徐々に自己主張がしやすくなります。
- 健康的な境界線を設定する
- 境界線を引く練習をする: 仕事や人間関係において、自分の限界を尊重し、他人に対して適切な境界線を設ける練習をします。例えば、業務時間外に仕事の連絡に応じない、自分の時間を確保するなどです。
- 境界線を守る方法を決める: 境界線を設定するだけでなく、それを守る方法を具体的に考えておくことも大切です。あらかじめ「この場合はこう対応する」と決めておくことで、いざというときに迷わず行動できます。
- 他者依存を減らす
- 自立した決定を増やす: 自分自身で決断を下す練習をします。例えば、日常的な小さな選択(食事や服装、スケジュールなど)を自分で決めることで、他人に依存することなく、自分で責任を持つことに慣れていきます。
- サポートシステムを利用する: 信頼できる友人やカウンセラー、コーチのサポートを受けることで、他者依存からの脱却を助けます。これらのサポートを活用しながら、少しずつ自立した生き方を目指します。
- 心理療法を受ける
- 認知行動療法(CBT): 認知行動療法は、極端な「現実の受け取り方」や「ものの見方」に気づき、ご自身の力で柔らかくときほぐし、自由に考えたり行動したりするのをお手伝いする心理療法です。
- カウンセリング: 長期にわたる他人に対する依存や支配の影響が深い場合、カウンセリングを受けることが有効です。専門家の助けを借りて、自分自身を見つめ直し、支配されない自分を築くサポートを受けることができます。
まとめ
誰かに従って生きていくことに慣れてしまった人が、自分の本当の気持ちに従って行動できるようになるまでには、自分の思考のクセに気づき、修正するという泥臭い習慣を繰り返していく必要があります。
ですから、自分の思考を客観的に振り替えることができるように、自分を追い込まない環境を整える必要があります。
それは、結果を出すことを急がず、頼れる周囲の人や専門家がいて、過去の傷つきと向き合える環境です。
自分の視野が狭くならないよう、さまざまな価値観に触れながら、本当の自分の気持ちに従って行動できるようになっていきましょう。
ポイント
- 自分を追い込まない環境を整えることからはじめるよう。
- 「こんな考えの人もいるんだ」「こんなことをしてもいいんだ」と思えるような刺激を、定期的に自分に与えましょう。
- 自分でどうにもならないときには、勇気をもって周囲の人や信頼のおける専門家を頼りましょう。